コンタクトレンズによる目の障害の原因

コンタクトレンズによる目の障害は、その装用を中止して点眼薬などで治癒させても、コンタクトレンズの装用に原因があれば、同じ障害を繰り返し引き起こします。原因として考えられるものを以下に記します。

処方

コンタクトレンズは誰でも使用できるわけではありません。コンタクトレンズを装用する上で問題となる目の疾患がある人や、コンタクトレンズ装用によって目の疾患が生じる、あるいは増悪する人にはコンタクトレンズを処方できません。適切なコンタクトレンズを選択し、良好なフィッティングが得られないと目の障害が生じます。そして、コンタクトレンズを正しく使用するためには、十分な説明と指導が欠かせません。
コンタクトレンズの処方にあたっては専門的な知識と技術を必要とします。そのため、コンタクトレンズに精通していない医師による処方で目の障害を生じたという報告も数多くあります。目の障害に対しては適切な治療と再発しないための対応が求められますが、こうした医師では十分な対処ができないことも問題です。コンタクトレンズの処方は眼科専門医によるべきと考えます。眼科専門医というのは日本眼科学会が認定する眼科専門医のことです。同学会のウェブページ(http://www.nichigan.or.jp/index.jsp)で確認することができます。

使用方法

コンタクトレンズの使用にあたっては医師の指示ならびにコンタクトレンズの添付文書に記載してある内容を遵守しなければなりませんが、これらに従わなかったために目の障害を生じた症例が多いです。具体的には長時間装用や連続装用などの無理な装用、ディスポーザブルソフトコンタクトレンズの再使用、頻回交換型のソフトコンタクトレンズおよび定期交換型のソフトコンタクトレンズの使用期限を超えた使用などです。メガネを持っていない、あるいは普段の生活でほとんどメガネを併用しないため、目の調子が悪くてもコンタクトレンズをはずさずに、障害が悪化することも多いです。

コンタクトレンズ自体

酸素透過性の悪いコンタクトレンズでは酸素不足による目の障害が発生しやすいです。一方、酸素透過性の高いソフトコンタクトレンズは汚れが付着しやすい、レンズに傷や破損が生じやすい、レンズが変形しやすいという問題があり、これらが原因で目の障害を引き起こすことがあります。若者を中心に人気のあるカラーソフトコンタクトレンズはレンズに人工的な着色が施されていますが、製品によってはこの着色の方法が問題で、角膜に障害を起こしやすいです。また、カラーソフトコンタクトレンズにはいろいろな規格(サイズ、カーブ、厚み)やデザインがないため、目に合わないものを無理に装用して、目の障害を生じる場合もあります。

レンズケア

ディスポーザブルソフトコンタクトレンズ以外のコンタクトレンズではケアを必要としますが、適切なケアをしないと種々の目の障害が生じます。数多くの商品が市販されていますが、その洗浄効果や消毒効果には差があり、安いから、あるいは簡便だからといって不適切な商品を安易に使用すると目の障害を生じます。レンズケアについても医師の指示、ならびにケア用品の添付文書の内容を遵守しなければなりませんが、コンタクトレンズの使用に慣れてくると、必要なケアを毎日行わない人がいます。手洗いが不十分だと、コンタクトレンズの取り扱い時に手指の汚れがコンタクトレンズ表面に付着することもあります。また、ケア用品は化学物質を含んでいますが、これらによる細胞毒性やアレルギーによって目の障害が生じることもあります。さらに、コンタクトレンズは清潔にしていても、コンタクトレンズを保管するケースが汚れていると目の障害が生じます。

定期検査

コンタクトレンズの使用にあたっては定期検査が大切です。定期検査ではコンタクトレンズによる視力だけでなく、コンタクトレンズのフィッティング状態やレンズの汚れ、傷、破損、変形の有無とその程度などを確認し、問題があれば適切な対応を行います。コンタクトレンズ使用者が自覚しないような目の障害が定期検査で見つかることもあります。目の障害の早期発見、早期治療のためにも、異常を自覚していなくても定期検査を受ける必要があります。
※日本コンタクトレンズ協会が「快適なコンタクトレンズライフのために」というリーフレットを作成しています。同リーフレットは日本コンタクトレンズ協会のホームページ(http://www.jcla.gr.jp/)、日本コンタクトレンズ学会のホームページ(http://www.clgakkai.jp/)、日本眼科医会のホームページ(http://www.gankaikai.or.jp/)からダウンロードすることができます。このリーフレットの作成に当院の院長は関わりました。

コンタクトレンズによる目の障害の実態

日本におけるコンタクトレンズによる目の障害の報告はこれまで数多くありますが、なかでも全国規模で行われた主な調査の結果を以下に記します。

日本眼科医会による調査

2008年の10月の1ヶ月間に実施した調査では220施設から2,582件の報告がありました。年代別の患者数は、20歳代が39.2%ともっとも多かったですが、10歳代も24.4%と数多く認めました。点状表層角膜症(20.3%)、アレルギー性結膜炎(14.2%)、角膜潰瘍・角膜浸潤(14.2%)、角膜びらん(10.3%)の割合が多かったです。原因としては、CLの処方、ケア、使用方法、ならびにCL自体に問題があったと考えられました。

日本眼感染症学会による調査

2003年に実施した全国調査では、24施設から261件の感染性角膜炎が報告されました。そのうちコンタクトレンズ使用者は109例(14.1%)で、コンタクトレンズ装用が最大の危険因子でした。特に10歳代のコンタクトレンズ使用率が96.3%、20歳代のコンタクトレンズ使用率が89.8%で、若い人たちが発症した感染性角膜炎はそのほとんどがコンタクトレンズの使用と関係していました。

日本コンタクトレンズ学会と日本眼感染症学会による調査

2007年4月から2008年8月中旬に実施した入院を必要とする重篤なコンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査では、224施設から233件の報告がありました。初診時の視力は0.1未満が47%でした。使用期限のあるソフトコンタクトレンズの使用超過、コンタクトレンズの長時間装用、コンタクトレンズの洗浄や消毒の不徹底、レンズケースの管理不足、定期検査の不遵守などが原因としてあげられました。

※上記の日本眼科医会による調査、日本コンタクトレンズ学会と日本眼感染症学会による調査には、当院の院長が深く関わりました。

コンタクトレンズによる目の障害の具体例

コンタクトレンズによる障害は、主に黒目(角膜)と白目(結膜)に生じます。角膜の表面を上皮といいますが、この上皮の障害はその深さによって重症度が異なります。最も浅い障害を点状表層角膜症、次に上皮が欠損した状態を角膜びらん、さらに上皮を越えた深い障害を角膜潰瘍といいます。障害が深くなればなるほど、治るまでに時間がかかり、最悪の場合には失明に至ることもあります。

コンタクトレンズの使用によって、①酸素不足が生じたり、②角膜に傷がついたり、③感染を起こしたり、④目が乾燥したり、⑤アレルギー反応を生じるなどの障害が起こります。

1.角膜に酸素不足が起こると、まず周囲の結膜の血管が拡張して、角膜に血液や酸素を補充しようとする反応(充血)が起こります。それでも酸素が足りないと角膜上皮は障害を生じます。装用したまま眠ったり、不規則にコンタクトレンズを使用している人が急に長時間装用したりすると、角膜びらんを生じることがあります(図1)。

(図1)酸素不足による角膜びらん
    ※特殊な色素で病変部は緑色に染めています。

2.コンタクトレンズと角膜の間に異物が入ったり(図2)、破損したコンタクトレンズを目に入れたり、ひどい汚れが付着したコンタクトレンズを入れた場合などに角膜に傷がつきます(図3,4)。また、目に適合していないカーブやデザインのコンタクトレンズを装用しても角膜に傷がつくことがあります(図5,6)。

(図2)ハードコンタクトレンズと角膜の間に入った異物に
    よる角膜上皮障害
    ※特殊なブルーのフィルターをかけています。
(図3)汚れたハードコンタクトレンズ
(図4)汚れたハードコンタクトレンズによる角膜上皮障害
(図5)ハードコンタクトレンズのフィッティング不良に
    よる角膜びらん
    ※特殊な色素で病変部は緑色に染めています。
(図6)ソフトコンタクトレンズのフィッティング不良に
    よる角膜びらん
    ※特殊なブルーのフィルターをかけています。

3.角膜の上皮障害に細菌やカビ、アメーバが感染すると重症化します(図7,8,9)。ハードコンタクトレンズではこうした感染症はほとんど起こりませんが、ソフトコンタクトレンズでは装用感がよいために自覚がなく、発見が遅れて重症化します。こうした感染症は、レンズケアが不適切であったり、ディスポーザブル型のソフトコンタクトレンズを使用した後、レンズを捨てないで再使用したりした場合に多いです。

(図7)細菌による角膜潰瘍
   (山口大学 近間泰一郎氏提供)
(図8)カビによる角膜潰瘍
   (山口大学 近間泰一郎氏提供)
(図9)アメーバによる角膜潰瘍
   (山口大学 近間泰一郎氏提供)

4.コンタクトレンズを装用するとコンタクトレンズは周囲の涙を吸引するので、目が乾きやすくなります。このため角膜や結膜に障害を起こすことがあります。とくにハードコンタクトレンズの使用者で結膜の横の部分が赤く充血している場合には同部にも点状表層角膜症を生じていることが多いです(図10)。ソフトコンタクトレンズの使用者では瞳孔領の下方に点状表層角膜症を生じやすいです(図11)。

(図10)乾燥による角膜上皮障害
    (ハードコンタクトレンズ装用)
    ※特殊なブルーのフィルターをかけています。
(図11)乾燥による角膜上皮障害
    (ソフトコンタクトレンズ装用)
    ※特殊なブルーのフィルターをかけています。

5.コンタクトレンズの汚れにより、上まぶたの裏側の結膜にアレルギーの反応が起こります。乳頭というブツブツが結膜にできて(巨大乳頭結膜炎)、目がかゆくなったり、目からの分泌物が多くなります(図12)。

(図12)アレルギー反応による巨大乳頭結膜炎
    (ソフトコンタクトレンズ装用)