人は情報の90%以上を目から得ているといわれています。テレビを見たり、新聞や本を読むのも、美しい景色を見るのもすべて目の働きのおかげです。

学校健診の視力検査でご自分の子どもさんの視力低下を指摘され、驚いて眼科を受診されるお母さんも多いと思います。検査でメガネが必要だと言われがっかりされる方、訓練で治らないだろうかと訴えられる方もおられます。また、若いときは遠くも近くもよく見えていたのにだんだんと近くが見づらくなってきた、目が疲れる、でも老眼鏡はかけたくないと訴えられる方もおられます。

そこで、近視、遠視、乱視などの屈折異常や老眼についてまとめてみました。また、よく質問される内容を問答式で記述しましたので、この記事を読んで正しい理解と知識を得て頂ければ幸いです。

目が見えるしくみ

目はよくカメラに例えられます。カメラのボディが網膜、レンズにあたるのが角膜と水晶体で、ピントは毛様体と水晶体が合わせますが、このピント合わせはオートフォーカス機構です。絞りは虹彩で、光の量に応じて反射的に瞳孔(ひとみ)の大きさが変わります。フィルムは網膜に相当し、外界の像はこの網膜に達した後に視神経を介して脳に達して、字を読んだり人物やものを見分けたりすることができるわけです。したがって、この角膜から網膜、さらに脳に至るまでの間に障害が起きれば、目は開いていても、ものは見えません。

・角膜(かくまく) 透明な膜
・水晶体(すいしょうたい) レンズの役目
・虹彩(こうさい) 光が入るのを調節する
・毛様体(もうようたい) 水晶体の厚さを変える
・網膜(もうまく) 光を感じる細胞
・硝子体(しょうしたい) 99%が水分・ゼリーのよう
・視神経(ししんけい) 網膜に映った光を脳に伝える


カメラ

レンズ (オートフォーカス機構)
絞り
フィルム
フィルムまでの距離

角膜と水晶体の合成系
毛様体と水晶体
虹彩
網膜
眼軸長

ものの見え方

0.1しか視力がないのに自分が見えないなどとは全然気づかない人もいれば、1.5見えてもまだぼけると言い張る人もいます。一概に視力が悪いといっても、いろいろな種類があります。

1.カメラのピンボケに相当するもの
  近視や乱視ではピントが合わないためにぼけて、乱視ではある方向に流れてぼけて見えます。
  度が強ければぼけ方もひどくなります。また、老眼では手元にピントが合いません。

2.レンズの汚れやくもりに相当するもの
  角膜や水晶体の混濁などで目に入った光がじゅうぶん網膜に届かないため、眼鏡をかけてもよい視力が出なくなります。
  水晶体の混濁は白内障といいます。

3.フィルムの異常に相当するもの
  網膜の病気では像が歪んだり、見ようとするところが見えなかったりして視力が悪くなります。
    
4.カメラのブレに相当するもの
  視線が定まらず、いつも目が揺れている眼振などでは、ほかに異常がなくてもよい視力が得られません。

5.写真の現像ミスに相当するもの
  眼球そのものは異常なく、像がちゃんと映っていても、それを伝える神経や、認識する脳に異常があればものは
  よく見えません。

視力について

1.遠方視力と近方視力
  5mに視力表を置いたときの視力を遠方視力、30cmに視標を置いたときの視力を近方視力といいます。

2.裸眼視力と矯正視力
  メガネやコンタクトレンズで完全に矯正した視力を矯正視力、矯正しないものを裸眼視力といいます。

3.片眼視力と両眼視力
  片眼を遮蔽した視力を片眼視力、両眼を開いたまま測定した視力を両眼視力といいます。

視力表の1番上にある大きな視標が0.1の視力で、以下視標は小さくなり、0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1.0,1.2の視力が検査できます。

ところで、視力表の段階は等間隔になっていません。実際に視力表をみるとわかると思いますが、0.1の視標と0.2の視標では大きさがかなり違います。一方、1.5と2.0ではその視標の大きさには差がほとんどありません。ところが、数字の上では視力0.1→0.2ではその差が0.1、1.5→2.0ではその差が0.5も違い、前者に比べて後者の方が大きな差があるような印象を受けてしまいますが、実際に視標の大きさの変化をみるとそのような大きな差はないのがわかります。

例えば、視力が0.1→0.2、0.9→1.0、同じ0.1の差ですが、実質的な視力を考える と、0.1→0.2の差を100%とすると、0.9→1.0の差は約10%です。したがって、0.9の視力が1.0になった変化よりも0.1が0.2になった変化の方が比較にならないほど大きな変化なのです。

ピント合わせ

学校健診の視力検査でご自分の子どもさんの視力低下を指摘され、驚いて眼科を受診される目の水晶体は近くを見るときにはふくらんで厚くなり、遠くを見るときは薄くなってピントを調節します。この調節のもとは毛様体筋という筋肉が緊張したり、ゆるくなったりして水晶体の厚さを変えます。

    遠くの物を見るとき
    近くの物を見るとき

屈折異常とは

眼球の中でカメラのフィルムにあたるのが網膜ですが、目から入った光が網膜の上にピントを結び、像がはっきり見えるのが正視です。正視以外を屈折異常といいます。

近視とは

正常なら網膜上に結ぶはずの像が網膜より手前に結んでしまい、その結果網膜上の像がぼやけてしまうのを近視といいます。
近視には、軸性近視と屈折性近視があります。

1.軸性近視                            
眼球の長さ(角膜から網膜までの長さ)を眼軸長といいますが、この眼軸長が正常よりも長すぎると遠くを見たときに網膜の手前で像が結んでしまいます。このような近視を軸性近視といいます。大部分の近視は軸性近視です。軸性近視の矯正には凹レンズを使います。
凹レンズは焦点(ピントが合う点)を近くにする働きがあり、近視の人が適切な度の凹レンズをかけると網膜にピントが合って遠くが良く見えるようになります。

2.屈折性近視                             
眼軸長は正常ですが、勉強をしすぎるなどして近くを見つめすぎたために、水晶体が近くを見つめた状態で固まってしまったものを屈折性近視といいます。遠くを見たときにも近くを見つめた状態が取れないために遠方がぼやけて見えるわけです。屈折性近視は偽近視、仮性近視ともいい、メガネやコンタクトレンズによる矯正は必要としません。遠方視の訓練や目の調節を休める点眼薬を用います。また、目が疲れないように本を読むときなどは、正しい姿勢で照明の明るさにも気をつけましょう。テレビや本を見たらしばらく目を休ませて、コンピューターゲームなども40分以上続けないようにしましょう。

目薬による治療

目の調節を休めるために、一般に2種類の目薬を使用します。緑色の目薬(ミオピン)と黄色の目薬(ミドリンM)を点眼して下さい。

1.緑色の目薬は1日4回(朝、昼、夕、寝る前)点眼して下さい。
  学校等で昼に点眼できない場合は1日3回(朝、夕、寝る前)でも構いません。

2.黄色の目薬は1日1回、寝る前だけに点眼して下さい。
  この目薬は目の緊張をとるだけでなく、瞳孔を広げる作用もありますので、誤って日中に点眼すると、まぶしい、
  見えにくい(特に近くが見えにくい)といった状態になりますので、必ず寝る前だけに点眼して下さい。

翌朝、まぶしい、見えにくくて困るようなことがあったり、また、人によっては目薬がしみる方がおられますが、あまりにしみて困るようであれば、係り付けの眼科専門医にご連絡下さい。

遠視とは

正常なら網膜上に結ぶはずの像が網膜より後ろに結んでいる状態です。遠視の人は眼軸長が短いので、ピントを合わせるために調節力を働かせて水晶体をふくらませるので、遠方を見ていても目が疲れます。

近くを見るときはさらに大きな調節力が必要で、より一層疲れます。強い遠視では眼軸長が非常に短いので、目がいくら調節してもはっきり見えないため矯正が必要です。また、軽い遠視でも目が疲れる場合には矯正をした方が良いでしょう。遠視の矯正には凸レンズを使います。凸レンズは焦点(ピントが合う点)を近くにする働きがあり、遠視の人が適切な度の凸レンズを使用すると網膜にピントが合って、正視の人と同じような状態でものを見ることができ、疲れなくなります。

子どもや若い人は調節力が強く、軽い遠視であれば調節力を働かせて正常な視力を示すことはありますが、中年になって調節力が衰えてくるとぼやけて見えるようになります。

乱視とは

目に入った光は、角膜と水晶体で集められて網膜にピントを結びますが、一点にピントが結ばずにズレてしまうのを乱視といいます。乱視が軽度の場合は矯正の必要はありませんが、強くなると特殊なレンズ(円柱レンズ)による矯正が必要です。

屈折負荷検査

目の緊張をとり、近視や遠視、乱視の程度を詳しく調べることが目的の検査です。診療時間内に検査のための2種類の目薬を点眼して、その後に屈折検査および視力検査をします。

= 注意事項 =

1.2種類の目薬を点眼して(5分おきに3回)、目の緊張がとれるまで1時間かかるため、検査は2種類の目薬を点眼して1時間後から開始します(1回目の点眼から1時間後)。 

2.2種類の目薬は目の緊張をとるだけでなく、瞳孔を広げる作用もありますので、検査後はまぶしい、見えにくい(特に近くが見えにくい)といった状態になります。したがって、検査後に学校の宿題や塾などを予定される場合には検査を控えて頂いた方が良いでしょう。特に予定のないときに検査を受けて下さい。

3.検査はそれぞれの眼科病医院によって、随時あるいは予約制になっていることもあります。検査を受けられる眼科病医院にお問い合わせ下さい。

老眼とは

年をとって近くのものが見えにくくなることを老眼といいます。
正視の人では大体42才頃から始まって、60才頃まで進行します。近くのものを見るときには、若い人では水晶体がふくれてピントを合わせるのですが、年齢とともに水晶体が硬化してふくれなくなりますから、しだいに近くのものの像を網膜に結ぶことができなくなります。水晶体の硬化は30才頃から始まります。眼軸長の短い目が遠視で、眼軸長の長い目が近視ですから、遠視の人は老眼になるのが早く、軽い遠視の人では30才代後半から老眼鏡が必要な人もいます。

これに対して近視の人は眼球が長いので水晶体があまりふくれなくても近くのものが見えるので、遅くまで老眼鏡を使わずにすみます。しかし、近視の人も自分の近視の度にきっちりと合ったメガネをかけると、正視の人と同じ状態になりますから、遠くは見えても近くは見えにくくなります。

老眼鏡は凸レンズで、水晶体の屈折を助けて網膜にピントを合わせます。老眼は60才頃まで進みますから、60才頃まではメガネの度をしだいに強くしてゆかなければなりません。

弱視とは

視力は脳とともに向上し、3歳になると半分以上の子どもが1.0見えるようになり、6歳で大人とほとんど同じ視力になります。

ところで、子どもの視力は毎日目を使って絶えずものを見ていないと発達しません。発達の途中で何らかの原因でものが見えにくい時期があると、見えにくい方の目は視力の発達が止まってしまいます。このように視力が悪い状態で止まってしまうことを弱視といいます。弱視になってしまうとメガネやコンタクトレンズによる矯正、手術をしてもそれ以上視力の向上は期待できません。弱視の治療は目を使わせることです。

しかし、大人になってからいくら目を使っても治りません。成長が止まってからいくら食事をとっても運動をしても身長が伸びないのと同じです。弱視が治るのは6~7歳(正確なことは不明)といわれていますが、早ければ早いほど治りやすいので、なるべく早く治療をする必要があります。

弱視の原因はいろいろとありますが、眼科医によくみてもらって適切な治療をしなければなりません。