水分を含んだソフトコンタクトレンズ(ハイドロゲルレンズ)は、柔らかいので装用感がいい、ずれないなどの長所がありますが、酸素を十分に透過しないという短所もありました。そこで、これまでの素材にシリコーンを混合したシリコーンハイドロゲルレンズが開発されました。
この新しい素材のシリコーンハイドロゲルレンズは、従来の素材のソフトコンタクトレンズに比して酸素の透過率は飛躍的に高まりました。黒目(角膜)はたくさんの酸素を必要とします。従来の素材のソフトコンタクトレンズを長時間装用すると、角膜が酸素不足を生じることがありましたが、シリコーンハイドロゲルレンズではそのようなことがほとんどなくなります。
しかしながら、シリコーンは疎水性(親油性)であるため、涙をはじいたり、脂質(油)がレンズにくっつきやすいという問題が起こります。

現在、シリコーンハイドロゲルレンズは、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社からアキュビュー®アドバンス®とアキュビュー®オアシス™、チバビジョン株式会社からO2オプティクスとエアオプティクス™、ボシュロム・ジャパン株式会社からメダリストプレミア、株式会社メニコンから2weekプレミオが発売されていますが、それぞれ素材や表面処理が異なるため、レンズの剛性、涙との親和性、脂質の付着性などが異なります。ひとつの製品を使用して調子が悪かったからといって、シリコーンハイドロゲルレンズが良くないというわけではありません。他の製品を使用すると改善する場合もあります。
眼科の先生とよく相談して、自分の目の状態に合った製品を処方してもらいましょう。

脂質がシリコーンハイドロゲルレンズに付着したという症例を示します。
2009年の1月28日に18歳の女性がコンタクトレンズがくもって見えにくくなるという訴えで来院されました。2週間で交換する従来素材のソフトコンタクトレンズを使用していたときは特に問題はなかったけれども、1週間前にシリコーンハイドロゲルレンズに変更してから調子が悪い、コンタクトレンズを見ると汚れている、汚れがひどくなると異物感も伴うということでした。
 患者さんが使用していたシリコーンハイドロゲルレンズを見ると、たしかに汚れています。従来素材のソフトコンタクトレンズはたんぱく質が付着しやすいのですが、シリコーンハイドロゲルレンズはたんぱく質はほとんどつきません。問題になるのは脂質(油)です。温度が高いときは油は溶けますが、低いと白く濁ります。この患者さんのシリコーンハイドロゲルレンズを4℃の状態で放置したものを示します。患者さんにはケア用品でこすり洗いをしっかりするように指導しましたが、良くなりませんでした。
こうしたトラブルは、気温の低い冬場に起こりやすいので、調子が悪いときは眼科でよく診てもらいましょう。

リコーンハイドロゲルレンズと消毒剤の適合性

ソフトコンタクトレンズ消毒剤(マルチパーパスソリューション)は、微生物の数を減らすことを目的としていますが、微生物だけに効き目があるわけではありません。人間の目の健常な細胞にも少なからず影響を及ぼします。
シリコーンハイドロゲルレンズは従来の素材のソフトコンタクトレンズに比べて硬いため、黒目(角膜)の表面はこすれて、傷がつきやすくなっています。こうした状態でマルチパーパスソリューションを使用すると角膜に強く影響し、健常な細胞がダメージを受けてしまいます。消毒効果の強いマルチパーパスソリューションほどこうした影響が強く現れるようです。但し、そのダメージが臨床的に問題になるのはそれほど多くなく、また、こうした所見が出る人、出ない人などさまざまで、出る場合にも装用時間などによって程度に差が生じます。
微生物による感染を防ぐためには、消毒効果の高いマルチパーパスソリューションを使用したいのですが、所見が強く出る場合には製品を変更した方がいい場合もあります。