83歳の女性が、一昨日から左側の顔面に発疹が生じて痛みを伴うという訴えで来院されました。
左顔面の上まぶたより上方だけでなく、頭にも赤い発疹を認めました。
専門的になりますが、この領域は三叉(さんさ)神経の第一枝が支配しています。ここにウィルス(詳しくは水痘帯状疱疹(すいとうたいじょうほうしん)ウィルス)が感染したのです。
体に帯状の発疹(ほっしん)ができて、少しの刺激でも痛みを感じます。原因は水ぼうそうを引き起こす「ヘルペスウィルス」の一種とされています。子どものころに感染したウィルスが脊髄(せきずい)などに潜伏し続け、加齢やストレス、疲れなどで免疫が低下したときに再び活動を始めることで発症します。
まれに発疹が下まぶたより下方、とくに鼻にまで及ぶことがあります(三叉神経の第二枝の支配領域です)。そうなると黒目(角膜)や虹彩、網膜、視神経などに炎症をきたすことがあります。この場合には早いうちに適正な眼科的な治療が求められます。
この患者さんは水痘帯状疱疹ウィルスによる眼球の所見はなかったので、皮膚科に紹介して、専門的な治療を受けていただくことにしました。
この帯状疱疹についてですが、宮崎県皮膚科医会が行った調査では、2006年までの10年間で2割強増えているとのことです(日本経済新聞2009年10月9日)。調査では、人口1,000人当たりの患者数(発症率)は10年間の平均で4.15人でした。調査開始年の1997年の3.60人に対して、調査終了年の2006年は4.55人でした(約2.6%増加しました)。
発症率を年代別にみると、40代までは平均2.41人でしたが、50代になると5.23人、70代では7.84人、80代では6.93人と、50代以上で発症率が高くなります。これは体の免疫能力が低下することと、地域が高齢化したことが影響していると考えられています。
男女別では女性の発症率は4.58人で、男性の3.67人より約25%高いという結果でした。
なお、水ぼうそうは感染力が強いですが、この帯状疱疹は弱いとされています。また、水ぼうそうは冬に流行しますが、帯状疱疹は夏に発症する人が多いといわれています。
ちなみに、有名な「四谷怪談」のお岩さんは、この帯状疱疹にかかったのではないかと考えられています。