目の疲れを訴えて来院される患者さんはたくさんおられます。薬局で購入した疲れ目の目薬をさすと、目はスッキリするでしょうが、それで本当に疲れがとれるわけではありません。疲れの原因を考える必要があります。
見え方の悪い目で物を見ていると目が疲れます。したがって、どうして見え方が悪いのかを確認する必要があります。ご年配の方では白内障による視力低下や、緑内障による視野狭窄(見える領域が狭くなる)が原因のことがあります。糖尿病や高血圧の方では眼底出血が視力や視野に影響を与えていることもあります。その他にドライアイ、斜視、眼球運動の障害など、多くの疾患が原因としてあげられます。
私が日々の診察の中で、目の疲れの原因として最も多いと実感するのは、近視、遠視、乱視などの屈折異常や老視(老眼)などの調節異常の不適正な矯正です。

最近経験した症例を示します。
34歳の男性です。目の疲労を訴えて来院されましたが、肩のあたりがつっぱる感じで頭痛もするとのことでした。営業マンでパソコンは仕事で1日2~3時間は使用されていました。遠方(5m)の視力は右1.5、左1.5でよく見えています。近方(30cm)の視力は右0.9、左0.9でわりと見えています。ここで私が疑ったのが、両眼の遠視と調節性眼精疲労です。特殊な検査(調節麻痺剤を使用した屈折負荷検査、アコモドメータによる負荷調節検査)を行なって、上記の診断が確定しました。
視力はいいのですが、実は目の内の筋肉(毛様体筋)を無理に使って物を見ていたのです。筋肉は使いすぎると疲労します。遠視の方は特に近くを見るとひどく疲労してしまいます。この患者さんがパソコンを使用すると目が疲れるというのは、これで説明できます。 患者さんには遠視を矯正するメガネを処方しました。このメガネを使用することで、目の疲労、肩こり、頭痛の症状は良くなりました。
メガネやコンタクトレンズは物がよく見えないから使用するというだけでなく、疲れないために必要な場合もあることを知っていただきたいと思います。

一方、メガネやコンタクトレンズが適正な度数でないため、目の疲労を訴える方が数多くいます。メガネやコンタクトレンズを適正に合わせることは眼科医でも難しいことです。屈折・調節に詳しい眼科医に診ていただいて、処方せんをもらって、メガネ店やコンタクトレンズ販売店で処方せん通りのものを購入するように心がけてください。
単によく見えるメガネやコンタクトレンズではなく、快適に見える(楽によく見える)メガネ、コンタクトレンズが必要なのです。

48歳の女性です。メガネをかけると目が疲れると訴えられました。メガネをかけると右1.5、左1.2とよく見えていますが、患者さんの近視には明らかに度の強いメガネでした。このメガネは1ヶ月前にメガネ店で合わせたということでした。実はこの患者さん、1年半前に来院された際、日中はコンタクトレンズを使用しているが、コンタクトレンズをはずした時に使用するメガネを処方してほしいということで、検査をしてメガネの処方せんをお渡ししましたが、いろいろと事情があってその折はメガネ店に行かなかったそうです。その後、コンタクトレンズの調子が悪くなった場合のことを考えると、やはりメガネがほしいが、時間の関係もあって、直接メガネ店に行ってメガネを合わせたということでした。
メガネ店の店員は無資格者です。屈折異常や調節異常の検査をして、メガネを処方する行為は医療行為です。医療行為は医師、看護師等の免許を有する者(有資格者)に認められた行為で、法律を遵守するという立場から考えると、こうした行為は医師法違反です。無資格者による行為が不適正なために、度の合っていないメガネが売られているケースをたくさん経験します。高いお金を払って購入したメガネが原因で目が疲れてしまい、医療機関(眼科)を受診するというのはおかしなことです。眼科で適正なメガネを処方してもらって、その指示(処方せん)にもとづいて、メガネ店でメガネを作るようにしてください。